眼の専門家である視能訓練士とスポーツ選手の見る能力「スポーツビジョン」とは??

みなさんはスポーツビジョンをご存じでしょうか?
スポーツビジョンとは、スポーツに必要な視機能とパフォーマンスの関係を研究するスポーツ医科学のことです。1)
パフォーマンスを向上させる上で視機能の向上は重要な役割を果たします。
そこで必要になってくるのがビジョントレーニングです。視能訓練士はビジョントレーニングにおいて適正な視機能の評価をはじめとして、欠かすことのできないキーマンとなります。2)

この記事では、スポーツビジョン、ビジョントレーニングと視能訓練士について紹介します。

スポーツビジョンについて

スポーツビジョンとは冒頭にもお話したように、スポーツに必要な視機能とパフォーマンスの関係を研究するスポーツ医科学のことです。
もともとはアメリカで1930年代に研究が始まったとされており、日本では、1980年代にスポーツビジョンセンターが開設されています。3)

スポーツと言っても様々なスポーツがありますよね。4)
そのため、どのような能力が必要かを一概に言うことは難しいですが、以下の能力が共通しているとされています。

  • 動くものをみる(ボール、選手など)
  • 広い範囲をみる(選手の位置、配置など)
  • 瞬間的にみる(一瞬でみて状況をつかむ)

これらの能力を総称して「スポーツ選手のみる能力」とされて、狭い意味での「スポーツビジョン」と呼ばれています。
では、具体的に求められる視覚機能はなんでしょうか。
眼科や健康診断などで通常行っている視力検査は静止視力と呼ばれるものです。静止視力の評価ももちろん重要ですが、スポーツビジョンではそれ以外に5つの能力の評価が必要になります。

スポーツビジョンにおける視覚機能の種類

眼球運動
正確に眼を動かす能力
周辺視
複数の物体から目標を探す
瞬間視
両眼で捉えた1つの物体を立体で認識する
動体視力
平面の絵や図から立体をイメージする
眼と手の協応動作
見たものに対して身体が反応するかを確認する

特に、野球やサッカーなど球技系の種目において、これらの機能の重要度が高く、選手のパフォーマンスに直結すると考えられています。

スポーツビジョントレーニングとは?5)

ビジョントレーニングがどういうものか、具体的に説明できる方は多くはないかもしれません。そこで、ここではビジョントレーニングの基礎知識についてお伝えします。

ビジョントレーニングとは、欧米諸国では歴史が深く、発達に課題がみられる子どもたちの改善・克服などに活用されてきました。また、近年では健常者にとっても視空間認知能力を高め、動体視力や判断力などの身体能力の向上を目的に、アスリートやプロスポーツ選手の能力発揮に用いられています。

視覚機能とは、大きく3つの機能に分けることができます。それが「入力系」「統合系(情報処理系)」「出力系」です。
実際の生活で3つの機能がどう活かされているか、キャッチボールを例に挙げてみましょう。

まず、相手と自分の距離を把握し、飛んでくるボールの軌道や速度などを視覚から正確に取り込むのが「入力系」です。そこで取り込んだ左右の眼からの情報は視神経を伝わって脳に辿りつきます。脳では色や動作、相手の表情や微細な動きなど人物や物体を認識処理されます。それが「統合系(情報処理系)」と呼ばれています。そして、最後に処理された視覚情報をもとに脳が指令を出し、その時に必要な運動が起こることを「出力系」と呼ばれています。

ビジョントレーニングは、この視覚機能を鍛えることによって、脳を活性化させ視空間認知能力を向上させるとともに、人が本来もつ集中力・判断力・情報処理能力など、様々な能力を高めていくことを目的としています。

では、スポーツにおいてビジョントレーニングの必要性はどこにあるんでしょうか?6)
筋トレと言えば「腹筋」や「腕立て伏せ」が有名ですよね?それらと同じように眼の周りについている『外眼筋』と呼ばれる筋肉を鍛えることがビジョントレーニングでは必要になってきます。
左右の眼球にはそれぞれ6本の外眼筋が存在しています。それらが働くことで眼球を自由自在に動かすことができます。外眼筋を鍛えることで目標物を正確に捉えたり、目からの情報を脳で処理して体を動かす運動機能を向上させる効果があると言われています。

現在、プロアスリートなどでの研究が重ねられており、パフォーマンス向上や視覚機能の向上、集中力の向上などに有効と言われています。また、プロ以外でも怪我の予防に繋げられることで、少しずつ日本でも広まりつつあります。

スポーツビジョンにおけるビジョントレーニングの方法

それでは、具体的にどんなトレーニングがあるのか紹介していきます。

スポーツビジョンにおけるビジョントレーニング7)

眼と手/身体の協応動作
広く素早くターゲットを眼で捉え、正確に見て反応する総合的なトレーニング
瞬間視記憶
瞬間的に表示される数字を正確に見て記憶する中心部の感知力を高めるトレーニング
空間認識
動いているターゲットの位置関係を正確に認識し、上から見た映像(俯瞰)に変換するトレーニング
周辺部の感知力
広く動くターゲットを眼で捉える周辺部の感知力を高めるトレーニング
中心部/周辺部の感知力
中心部と周辺部の感知力を高めるトレーニング
眼球運動(追従性眼球運動)
眼を動かして動くターゲットを正確に捉えるためのトレーニング

特別なトレーニングだけではなく、日常の生活で軽く眼球運動を行うことや、指やペン先を見つめて遠ざけたり近づけたりしながら眼のピントを合わせるなど簡単に行えるトレーニングもあります。

視能訓練士とは?8)

ビジョントレーニングにおいて、重要な役割を果たすのが「視能訓練士」です。視能訓練士について紹介します。

視能訓練士は視能検査と視能矯正のエキスパートです。
Certified Orthoptist(CO)とも呼ばれ、小児の弱視や斜視の視能矯正や視機能の検査をおこなう国家資格を持つ専門技術職として日本では1971年に誕生しました。視能訓練士の資格を得るには、年に1回実施される国家試験の合格が必須となります。また、その試験には受験資格があり、以下の条件のいずれかをクリアしなければなりません。

視能訓練士の国家試験受験資格条件

  • 視能訓練士養成施設を卒業

    高校卒業後、指定された視能訓練士養成施設で3年以上必要な知識や技術を修得する。

  • 短大卒以上で、視能訓練士養成施設
    (1年以上)に修業

    大学や短大、または看護師や保育士の養成機関で指定科目を履修したのち、指定の視能訓練士養成施設で1年以上必要な知識や技術を修得する。

  • 外国の視能訓練士の学校を卒業

    外国の視能訓練士の学校を卒業した者、または外国で視能訓練士の免許に相当する免許を受けた者で、日本の養成学校で学んだのと同等の技術があると厚生労働大臣が認定した者。

視能訓練士は視覚・視機能に関する専門的な知識と技術を持ち、眼の検査や訓練を実施する専門職になります。病院や医療機関で眼科医の右腕として、大切な眼の健康を守るために活躍できるお仕事です。

視能訓練士の役割と仕事内容

視能訓練士の主な現場は眼科です。眼科にある検査全てを網羅していると言っても過言ではありません。また、検査で患者さんの状態を評価するだけでなく、医師の指示のもと視機能回復に必要な訓練を行います。

視能訓練士の主な業務は4つです。

視能訓練士の主な業務

検査
視力検査など診断に必要な患者様の検査データを医師に提供します。
訓練
弱視や斜視に対しての視力向上や正常な両眼視機能の獲得を目的とした視能訓練を行います。
検診
疾患の早期発見を目的に病院だけでなく、保健所・学校・職場などで集団検診を行います。
リハビリテーション
(ロービジョンケア)
治療や訓練では回復困難な視覚になった時、残っている視機能を最大限に活かすため、
必要な情報を提供します。

視機能評価のための検査や訓練などが主な役割と仕事内容になります。眼科分野の専門家として、眼科医の右腕として活躍するのが視能訓練士です。

眼科医と視能訓練士はどう違うのでしょうか?
視能訓練士は医師(特に眼科医)がいないと検査などの医療行為をすることができないということが大きな違いでしょう。また、手術などの治療行為を行うことも視能訓練士には認められていません。
ただ、検査や視能訓練の分野に関しては、医師よりも長く学ぶことになるため、高い知識や技術をもつことが可能です。

視能訓練士とビジョントレーニング

視能訓練士の主な業務は4つです。

先に説明したようにビジョントレーニングは視覚機能を鍛え、向上させるトレーニングです。プロアスリートだけではなく、誰でも気軽に行えますが、眼の専門家である視能訓練士のサポートを受けることでより効果を高める可能性が見込めます。
現在は、この分野で活躍している視能訓練士は多くありませんが、今後求められる領域になると考えられています。
ビジョントレーニングは専門的な訓練以外に誰でも行えるトレーニングもあります。訓練の効果は個人差があり、必ずしも効果が表れる保証も即効性があるものでもありません。だからこそ、視覚機能を正しく評価し、その人に必要なトレーニングから行う必要があります。ただしく視覚機能を評価できるのは誰だと思いますか?ここまで読んで頂いた皆様にはわかりますよね?「視能訓練士」です。
眼科領域の検査・訓練の専門家である視能訓練士であれば、きっと今必要なサポートを行ってくれるでしょう。

【参考】

  1. JSVA – 一般社団法人 日本スポーツビジョン協会
  2. 2014年第54回日本視能矯正学会シンポジウム1より
  3. スポーツビジョン協会 歴史より
  4. 日本視能矯正学会より
  5. 一般社団法人日本ビジョントレーニング普及協会「子どもに生きる力を与えるビジョントレーニングについて」
  6. メガネのイタガキ「目を鍛える!スポーツビジョントレーニング」
  7. V-Training 監修:日本スポーツビジョン協会
  8. 日本視能訓練士協会より

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