ある日の東京医薬専門学校。
大園衣知さんは、バイオデータサイエンス学科の2023年開講に向けて忙しい日々を送っています。
今日は顧問の江洲先生が学校に来る日。出来上がったパンフレットを見せようと、ミーティングルームにやってきました。
江洲先生は王曽野新さんと時間割や教科書の検討をする予定です。
大:あれ、江洲先生は?
王:オミクロン株が怖いって、WEB会議になりました。
(王曽野さん、Zoomを立ち上げる。)
江:やあ、王曽野さん、今日もよろしく。大園さん、それは新しいパンフレットかな?申し訳ない。ちょっと、オミクロン株が怖くてね。
大:感染力が高いようですね。
王:感染者も急に増えてますよね。
江:そうなんじゃよ。感染力は2−3倍で、ワクチンを打ってから半年たつと、オミクロン株は防げないようだし。重症化しにくいようだけど、用心用心。
大:じゃ、わたしはこれで。
江:そうそう、面白い話があるんじゃ。
大・王:(ぎくっ、話長いからなあ。)
江:オミクロン株は、ネズミで増えた新型コロナウイルスらしい、って話を知ってかい。
王:なんですか、それ?
説明
これまでの新型コロナウイルスの変異株として、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、ミューなどが知られていた。オミクロンは最近見つかった変異株だ。
これらの変異株はもともとの新型コロナウイルスのゲノム配列のいろいろな場所、特に、スパイクタンパク質の遺伝子に変化が起き、ウイルスの感染力の上昇やワクチンが効きにくいといった性質をもつようになったとされている。変化の数と種類を計算して図示すると
これを見ると、オミクロン株は他の変異株とずいぶん違うことが分かる。
オミクロン以外の変異株は、スパイクタンパク質の遺伝子に、それぞれ5−6個の変化が起きており、病原性の高いデルタ株でも8−10個の変化である。これに対し、オミクロン株では30個以上の変化が見つかる。
大:オミクロンだけ、離れてますね。
江:そう、どうしてこんなに離れた変異株が突然あらわれたのか、今もって、なぞなんじゃ。
王:分かりやすい図ですけど、先生が作ったんですか?
江:はっは、こんなのは、お茶の子じゃよ。で、これだけ離れた理由として、オミクロン株は、いったんネズミで増え、その後、ヒトにもどってきたたのではないか、という論文が出て、注目されているんじゃ。
説明
ウイルスが増える場合、ゲノムの配列に変化がおこるが、その変化の種類と数が、どの動物で増えるかによって、微妙に異なることが知られている。その研究をしてきた研究者がオミクロン株について、オミクロン株が大流行する前に起こったと思われる変化と、その後に起こったとおも終われる変化に分けて調べてみた。それによると、大流行後の変化は、ヒトで増えたウイルスに起こる変化に近いが、大流行の前の変化はネズミで増えた配列変化のパターンに近いことがわかった。
江:図の点の1つ1つがウイルスのゲノム配列に起こった変化のパターンを数値化したものじゃ。同じで動物で増えたウイルスのものは同じ色にしてある。こうしてみると、同じ色の点はある範囲にまとまっているのがわかるね。
大:ネズミとネコとイヌとコウモリは右に、ヒトは左に、ウシとラクダとブタはその間に、って感じですね。
王:で、流行前は右のネズミの黒い点の近く、流行の後は左のヒトの水色の点の近くですね。うん、わかりやすいかも。
江:そう。データを数値化するだけでなく、分かりやすく図示するのもデータサイエンスの大切な役割じゃ。図示すると、新しい気づきも生まれてくる。
大:わたしでもできるかな。
江:実は、データを集めるのが結構大変じゃね。データさえあれば、新しいバイオデータサイエンス学科で学べば、こうした図を作ることは..
大・王:お茶の子さいさいじゃ、ですね。
江:それそれ。
大:(ああ、また、時間が…)